仕事に効くコンピュータサイエンス
あとがき読了目安 5分

あとがき — なぜこの本を書いたのか

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

最後に少しだけ、この本がどこから来たのかを書かせてください。

仕事術の本を書いた人間の、反省文として

序章で、この本は「仕事術の本を閉じて、CSの教科書を開く」ところから始まりました。

実は、こう書いたぼく自身が、かつて仕事術の本を書いた人間です。

2017年に『外資系コンサルは「無理難題」をこう解決します。』という本を出しました。

コンサルタントとして日々の仕事から拾い上げた工夫を、一つずつ言葉にした本です。

その内容が間違っていたとは思っていません。

ただ、あれから仕事術を書き続け、読み続けるうちに、ずっと引っかかっていたことがあります。

仕事術は、いくら集めても体系になりにくいのです。

一つひとつの工夫は確かに効くのに、場面が少し変わると使えなくなり、また次の工夫を探しに行くことになります。

工夫の「一段下」にある、場面が変わっても崩れない土台を渡せないだろうか。

この本は、その問いへのぼくなりの答えです。

きっかけは、効率化オタクの棚卸しでした

ぼくは極度の面倒くさがりで、「こうした方が早くない?」が口癖の効率化オタクです。

2016年から「NAEの仕事効率化ノート」というブログに、仕事で見つけた効率化の気づきを書きためてきました。

10年分の記事を読み返して、あるとき気づいたことがあります。

本当に効き続けている工夫は、ほとんどすべて、学生時代に学んだコンピュータサイエンスの考え方の焼き直しだったのです。

「はまっている時間を減らせ」と書いた記事は、待ち時間の設計の話でした。

表計算の繰り返し作業をマクロにまとめた話は、同じ仕事を二度しないという話でした。

会議の進め方を型にした話は、この本の10章で書いたプロトコルの話そのものでした。

ぼくは大学と大学院で情報工学を学び、2009年からはITコンサルタントとして働いてきました。

コードを書く仕事からは、もう長いこと離れています。

それでも頭の中では、ずっとCSの語彙が動き続けていたのだと、棚卸しをして初めて分かりました。

仕事術として一つずつ拾っていた工夫は、CSの教科書の中では、最初から一つの体系としてつながっていました。

だったら、工夫を百個集めるより、教科書を仕事の言葉に翻訳したほうが早い。

そう考えたのが、この本の出発点です。

AIが、背中を押しました

書こうと決めた直接のきっかけは、AIです。

この数年で、ぼく自身の仕事のやり方は根本から変わりました。

かつて何時間もかけていた資料づくりの多くを、いまはAIが担っています。

その変化のただ中で、はっきり見えたことがあります。

道具が強力になるほど、成果の差は道具の操作からは生まれなくなり、土台の考え方の差がむき出しになる、ということです。

同じAIを使っているのに、速くなる人と、かえって遅くなる人がいます。

分かれ目は、仕事を構造で捉えられているかどうかでした。

どこで待ちが発生し、何が重複していて、どこが一点に依存しているのか。

それが見えている人の指示は的確で、見えていない人は、AIの出力に振り回されます。

AIは魔法の杖ではなく、リトマス試験紙なのだと思います。

手続きや操作の価値が下がっていくほど、構造を見抜く目の価値が上がっていく。

そして、その目を鍛える教材として最も密度が高いのが、コンピュータサイエンスでした。

CS専攻でない働く人に、コードを一行も書かせずに、考え方だけを手渡したい。

数式も端末も出てこない翻訳だけの本を、いま書く意味があると思いました。

最後に

この本から一つだけ持ち帰るなら、序章と終章で繰り返した、あの問いにしてほしいと思います。

「これは、コンピュータで言うと何の問題に近いか。」

明日の仕事で何かに行き詰まったとき、この問いを一度だけ試してみてください。

うまく翻訳できたら、それはもう、あなたの道具です。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

NAE