5分で済む確認のために、30分の会議を設定してしまったことはないでしょうか。このページでは、やり取りを「同期」で行うべきか「非同期」で行うべきかを考えます。この区別は、コンピュータ同士の通信方式から借りたものです。
同期と非同期の違い
同期通信とは、依頼した側が、相手の応答が返るまでその場で待つ通信の形です。電話や会議がこれにあたります。相手が今すぐ手を止めて対応してくれる前提が必要です。非同期通信とは、依頼した側が応答を待たずに次の作業に進み、相手は都合の良いタイミングで応答する通信の形です。チャットやメールがこれにあたります。相手の手が空くまで、依頼は待機します。
コンピュータの世界では、この2つを場面によって使い分けます。即座に結果が必要な処理は同期で行い、結果を待たずに他の処理を進めたい場合は非同期で依頼を出し、後から結果を受け取る形にします。同期処理を書く方が、プログラムとしては単純です。依頼を出して、答えが返るまで待って、次に進めばよいだけだからです。一方で、同期処理ばかりにすると、待っている間、他の作業が一切進まなくなります。非同期処理は、書き方はやや複雑になりますが、待ち時間の間に他の仕事を進められるという利点があります。
もう1つの違いは、複数の依頼をどう扱えるかです。同期通信では、1つの依頼への応答を待っている間、次の依頼を出すことができません。非同期通信では、複数の依頼を立て続けに出しておき、応答が揃ったものから順に受け取れます。この性質は、後で見る「複数の関係者に同時並行で確認を取る」場面で、そのまま仕事の話に置き換えられます。
会議とチャットに翻訳する
会議は同期通信です。参加者全員が同じ時間を止めて、その場で応答し合います。その場で議論して結論を出せる利点がありますが、全員の時間を同時に拘束する分、コストが高い手段でもあります。例えば、参加者が5人いる30分の会議は、単純計算で2時間半分の人の時間を使っています。このとき、実際に発言しているのは1人ずつでも、残りの4人の時間は同時に止まっています。会議のコストを考えるときは、話している人の時間だけでなく、聞いている全員の時間を合算する必要があります。
チャットやメールは非同期通信です。相手の手が空いたときに読んでもらえばよく、その場で時間を拘束しません。その代わり、応答が返るまでに時間がかかることがあります。つまり、どちらが優れているかではなく、依頼の性質に応じて使い分けるべき道具です。
判断の手順を段階で持つ
やり取りのたびに毎回悩むのは大変なので、判断の手順を先に決めておくと役立ちます。第1段階は、「その場の議論で結論が変わる可能性があるか」を自問します。変わる可能性が高いなら、同期、つまり会議を検討します。第2段階は、変わる可能性が低い場合に、「関係者は何人か」を確認します。
関係者が少数で、かつ緊急度が高いなら、電話などの即時の同期手段も選択肢に入ります。第3段階は、緊急度も低く、関係者が多いか散らばっている場合です。この場合は、非同期、つまりチャットや文書での共有を基本にします。この3段階を踏むだけで、「とりあえず会議を入れる」という反射的な判断を減らせます。
架空の例で、実際に頭の中でこの3段階を回してみます。「来月のイベントの会場変更について、営業と制作の意見を聞きたい」という場面だとします。第1段階で、「会場が変わると動線設計が変わるため、議論次第で結論が変わる」と分かります。この時点で、非同期の文書だけで済ませるのは難しいという判断が下せます。
続けて第2段階に進むと、関係者は営業と制作の2名だけで、緊急度も中程度だと分かります。この場合は、大がかりな会議ではなく、15分程度の短い同期の場で足りると判断できます。もし関係者が10名を超え、かつ来週まで結論を急がないなら、第3段階に進み、まずは非同期の文書で論点を共有してから、必要な部分だけ集まる形を選びます。
具体場面で見分ける
架空の場面を3つ考えます。1つ目は、複数案から1つを選ぶ意思決定です。それぞれの案に賛否があり、その場での議論が結論を左右する場合は、同期、つまり会議が向いています。非同期で意見を集めると、議論がかみ合わないまま時間だけが過ぎることがあります。
例えば、チャットで「A案かB案、どちらがよいと思いますか」と尋ねると、賛成派と反対派がそれぞれ別のスレッドで意見を述べ合い、誰も相手の懸念に直接答えないまま、発言だけが積み上がっていくことがあります。これを15分の会議に切り替えると、「A案の懸念は納期、B案の懸念はコスト」という対立点がその場で言葉になり、双方が納得できる折衷案をその場で作れることがあります。文字だけでは3日かかっていた議論が、対面の15分で決着する場合があるということです。
2つ目は、事実確認です。「先方への提出期限は何日でしたか」という確認は、相手の手を止める必要がありません。チャットで送っておけば、相手が気づいたときに一言で返せます。これを会議の議題にすれば、他の参加者の時間まで巻き込んでしまいます。
3つ目は、進捗の共有です。特に議論の必要がない定型的な進捗報告は、非同期の文書やチャットで十分な場合が多いです。それでも定例会議で毎回同じ報告を読み上げているなら、その会議は本来、非同期で済ませられる情報共有に、全員の時間を使っている状態です。
落とし穴 — 使い分けを誤る
落とし穴は主に2方向にあります。1つ目は、本来チャットで済む確認を、わざわざ会議にしてしまうことです。関係者の予定を合わせるコストと、会議中に他の参加者を待たせるコストがかかります。
架空の例で言えば、「来月の展示会のブース位置を確認したい」というだけの用件のために、5人の予定を合わせて30分の会議を設定し、実際に話した時間は2分だった、ということも起こります。この場合は、会議という同期の呼びかけ自体をチャットに置き換え、「ブース位置はA案で進めます。異論があれば今日中に教えてください」と一言送るだけで足ります。誰からも異論が出なければ、それだけで確認は完了し、会議という同期の手段はそもそも不要だったことになります。
2つ目は逆に、本来会議で決めるべき議論を、チャットだけで済ませようとすることです。文字だけのやり取りでは、意見の対立や前提の違いが見えにくく、結論が出ないまま既成事実だけが積み上がることがあります。
架空の例で言えば、新しい業務フローの導入について、チャットで意見を募ったとします。賛成の声だけが目立ち、実は懸念を持つ人が発言を控えていたとしても、文字だけのやり取りでは、その沈黙が「同意」なのか「言い出しにくいだけ」なのかを判別できません。導入後に「実はずっと懸念があった」という声が出て、後戻りする羽目になることもあります。込み入った意思決定を非同期でやろうとすると、かえって時間がかかります。
3つ目は、非同期のはずのチャットに、同期並みの即レスを期待してしまうことです。非同期通信の利点は、相手の手が空くまで待てることです。その利点を無視して即座の返信を求めれば、相手は常に手を止めて待機する状態になり、非同期を選んだ意味がなくなります。
架空の例で言えば、「チャットで送ったので、5分以内に既読と返信をください」という暗黙の期待が職場に広がっていたとします。これでは、チャットを開いた瞬間から常に応答を迫られる状態になり、相手は他の作業に集中する時間を失います。結果として、会議を減らしたはずが、チャットへの即応という形で、同じだけの拘束が形を変えて戻ってくることになります。
よくある反論 — 「チャットだと空気が伝わらない」
「文字だけのやり取りでは、相手の温度感や本音が伝わらない」という反論もよく聞きます。これは事実で、非同期のやり取りには、そうした情報が欠け落ちやすいという弱点があります。だからこそ、判断の目安として挙げた「その場の議論が結論を左右するか」が効いてきます。温度感や本音の読み取りが結論に直結する話し合いなら、迷わず同期を選べばよいのです。一方で、事実確認や進捗共有のように、温度感がそもそも判断材料に含まれないやり取りにまで、この反論を持ち出すと、あらゆる連絡が会議化してしまいます。反論が当てはまる場面かどうかを、まず見極めることが大切です。
もう1つの対処として、非同期のやり取りでも、絵文字や短い一言で温度感を補う工夫があります。「賛成です」だけでなく「賛成です。ただ少し気になる点があります」と一言添えるだけで、文字だけでも、完全な同意ではないというニュアンスは十分に伝わります。温度感が伝わらないのは、非同期という手段そのものの限界ではなく、書き手が結論だけを短く書きすぎていることが原因である場合も、少なくありません。
判断の目安
判断の目安は、「その場の議論が結論を左右するか」です。左右するなら同期、左右しないなら非同期、とひとまず考えてみてください。迷った場合は、非同期で下書きを共有してから、必要な部分だけ同期で詰める、という組み合わせも有効です。例えば、資料の骨子をチャットで先に共有しておき、実際に集まる会議では、その骨子への異論だけを議論する、という進め方です。こうすると、会議の時間は「読めば分かる部分」ではなく「話さないと決まらない部分」に絞られます。
この組み合わせ方は、前のページで見た会議体の設計とも相性がよいものです。会議の冒頭で「今日決めること」を共有する代わりに、会議が始まる前の非同期の文書で、その論点をあらかじめ提示しておくと考えれば分かりやすくなります。同期と非同期を、どちらか一方を選ぶものとして対立させず、前工程と本番という役割分担で組み合わせる発想です。
持ち帰り
- 同期通信は相手の応答をその場で待つ形、非同期通信は待たずに進める形である
- 会議は同期、チャットやメールは非同期にあたり、依頼の性質で使い分ける
- その場の議論が結論を左右するかどうかが、同期にすべきかの判断の目安になる
やってみる
次に会議を設定する前に、「これはチャットで済むのではないか」と一度自問してみてください。