新しいプロジェクトが立ち上がり、関係者が5人から10人に増えました。人数は2倍なのに、確認会議の時間は2倍どころか3倍、4倍にふくれ上がった。そんな経験はないでしょうか。
プロジェクトリーダーは頭を抱えます。「人数を増やしたのに、なぜ前より進みが遅くなったんだ」。増員は本来、仕事を楽にするための判断だったはずです。しかし現実には、確認や調整の手間が増え、かえって身動きが取れなくなることがしばしば起こります。
このページの問いは、なぜ関係者が増えると、仕事は比例以上に重くなるのかです。前ページで見た線形・二次・指数という型を、もう少し具体的に見ていきます。
線形に増える仕事は「読める」
まず線形の仕事を確認します。1人につき1件の報告書をチェックするなら、5人で5件、10人で10件です。人数と手間がそのまま比例します。
なぜこの仕事は線形なのでしょうか。理由は、1件のチェックが他の件のチェックと関係なく完結するからです。Aさんの報告書を見ている間、Bさんの報告書の内容を気にする必要はありません。この「独立して片付く」という性質が、線形の仕事を見分ける手がかりになります。
線形の仕事の特徴は、増えても「予想の範囲内」で重くなることです。 2倍の人数になれば2倍の時間を見ておけばよく、見積もりが立てやすいという利点があります。
たとえば、10人分の経費精算をチェックする作業を思い浮かべてください。1人分あたり5分かかるなら、10人で50分、20人になれば100分です。人数がどれだけ増えても、電卓を叩いて計算式を組み替える必要はありません。同じ手順を、対象の数だけ繰り返すだけで済みます。
線形の仕事にとって唯一の注意点は、「1件あたりの手間」自体が本当に一定かどうかです。経費精算でも、領収書の様式がバラバラだったり、金額の確認に問い合わせが必要だったりすると、1件あたりの手間が膨らみ、見た目は線形でも実態は重くなっていることがあります。
二次に増える仕事は「静かに爆発する」
一方、全員同士の組み合わせが絡む仕事は違います。5人が全員と1回ずつ予定をすり合わせるなら、組み合わせは10通りです。10人になると、組み合わせは45通りになります。
人数は2倍なのに、組み合わせは4.5倍です。もし部署が20人になれば、組み合わせは190通りに達します。人数の増え方に対して、組み合わせの数はほぼ2乗のペースで増えていくためです。
手順に沿って追ってみましょう。5人のグループで日程調整をするとき、まずAさんが残る4人それぞれと都合を確認します。次にBさんが、Aさんとはすでに確認済みなので、残り3人と確認します。この「1人ずつ確認相手が減っていく総当たり」を最後まで続けると、確認の総数は10回になります。人数が増えるほど、この総当たりの回数が急に膨らんでいきます。
これが「二次」の増え方です。恐ろしいのは、増え方が緩やかに始まることです。 5人から6人に増えても、組み合わせは10通りから15通りに増えるだけで、大きな変化に見えません。しかし人数が増え続けると、組み合わせの数はどんどん急な角度で伸びていきます。
図: 人数が同じだけ増えても、線形の仕事はゆるやかに、二次の仕事は急な角度で増えていく。
二次の仕事の具体例
仕事の中には、二次の増え方をするものがいくつもあります。
- 日程調整: 全員の空き時間を突き合わせる確認作業
- 合意形成: 関係者全員の意見をすり合わせる調整作業
- 相互レビュー: メンバー同士が互いの成果物を確認し合う体制
どれも「全員が全員と関わる」構造を持っています。人数が増えるほど、確認すべき相手の数そのものが増えていくため、比例以上に重くなります。
相互レビューの場面を手順で追ってみます。5人チームで互いの資料をレビューし合う場合、1人が残り4人分をレビューし、これを全員が行うので、レビューの総数は20件です。チームが10人になると、1人が9人分をレビューし、全員で90件になります。人数が2倍になっただけで、レビュー件数は4.5倍に膨れ上がります。「全員で確認し合えば安心」という発想が、実は最も重い仕組みを選んでいることがあるのです。
指数的な爆発 — 選択肢の掛け合わせ
さらに厄介なのが指数的な増え方です。たとえば、5つの案件それぞれに「進める・保留する」の判断があるとき、判断の組み合わせは2の5乗、32通りです。案件が10件になれば、1024通りになります。
すべての組み合わせを検討しようとすると、案件数がわずかに増えるだけで、現実的な時間では手に負えなくなります。これが指数的な増え方の恐ろしさです。
会議の場面を思い浮かべてください。「A案を進める場合とB案を進める場合、それぞれでC施策とD施策をやるかやらないか、全部の組み合わせを比較してから決めましょう」。案件数が2つ、3つのうちは成立する提案に聞こえます。しかし案件が5つ、6つに増えると、組み合わせは32通り、64通りとなり、誰も比較しきれません。「念のため全部を洗い出そう」という慎重な姿勢が、指数的な増え方の前では機能しなくなるのです。
仕事の言葉に翻訳する
関係者や選択肢が増えたときに仕事が急に重くなるのは、「頑張りが足りない」からではなく、構造的に組み合わせが爆発しているからです。これを見抜けば、次のような対処が見えてきます。
冒頭のプロジェクトリーダーの例に戻りましょう。増員した5人が全員、進捗確認のたびに全員と情報をすり合わせる体制のままでは、人数を増やすほど確認の手間が増えるという逆効果が起こります。人数を増やす前に、まず確認の構造そのものを変えておく必要があったのです。
- 全員対全員の構造を崩す: 代表者を立てる、階層を作る(11章の分散システムにもつながる考え方です)
- 確認範囲を絞る: 全員に確認するのではなく、影響を受ける人だけに絞る
- 判断を先に固定する: 組み合わせを全部検討せず、判断基準をあらかじめ決めておく
先ほどの相互レビューの例で言えば、全員が全員をレビューする代わりに、1人がレビュー担当としてまとめて確認し、他のメンバーは担当者の判断を信頼する体制に変えると、レビューの件数は人数にほぼ比例するところまで落ち着きます。構造を崩すというのは、難しい仕組みを導入することではなく、「全員対全員」をやめるだけのことも多いのです。
判断を先に固定するという対処も、身近な例で考えられます。「進める・保留する」を案件ごとに個別に検討するのではなく、「この条件を満たせば進める」という基準をあらかじめ決めておけば、組み合わせを1つずつ比較する必要がなくなります。指数的な爆発を避ける最も手軽な方法は、判断基準を先に決めてしまうことです。
落とし穴
二次や指数的な仕事に直面したとき、最もよくある誤りは「人を増やして乗り切ろうとする」ことです。確認や調整が主体の仕事に人を増やすと、確認すべき組み合わせがさらに増え、かえって全体が重くなることがあります。
たとえば、日程調整が難航しているプロジェクトに、調整担当をもう1人追加したとします。一見すると人手が増えて楽になりそうですが、実際には新しい担当者も含めて全員との確認が必要になり、組み合わせの数自体が増えます。「手が足りないから増員」という判断は、作業が線形のときには効きますが、二次の作業には逆効果になることがあるのです。
もう1つの落とし穴は、増え方の型を見誤って過剰に警戒することです。すべての仕事が二次や指数的なわけではありません。単純作業の多くは線形です。どの型に当てはまるかを、まず見極めることが先決です。
「念のため全員に確認を取っておこう」という判断も、実は見誤りの一種です。本当に確認が必要な相手が2、3人だけなのに、関係しそうな人全員に念のため声をかけると、確認相手の数が不必要に膨らみ、線形で済むはずの仕事を二次に近づけてしまいます。増え方の型は、仕事の性質だけでなく、進め方の選び方によっても変わるという点を、この章を通じて繰り返し見てきました。
見極めのコツは、確認作業に入る前に「本当に確認すべき相手は誰か」を書き出してみることです。関係者リストを作ってから、実際に確認が要る相手を絞り込むだけで、線形の仕事を不必要に二次へ近づける失敗の多くは避けられます。
持ち帰り
- 全員対全員で関わる仕事は、人数の2乗に近い勢いで重くなる
- 選択肢の組み合わせを検討する仕事は、指数的に爆発しやすい
- 対処は増員ではなく、構造を崩す・範囲を絞る・判断を先に固定すること
やってみる
直近の会議や確認作業のうち1つで、「全員対全員」の構造になっていないかを、実際の確認回数を数えながら点検してみてください。